経理がおこなうべきコスト削減方法!
すべての企業にとって売上を伸ばすことは至上命題だと言えますが、一方で、おろそかにできないのがコスト(経費)削減です。特に、売上で伸び悩んでいる企業が利益を確保するには、コスト削減が欠かせません。コスト削減に成功すれば、売上が少なくても利益を出せるようになります。
今回は、コスト削減のポイントや経理がおこなうべきコスト削減の方法、コスト削減をする際の注意点などについて解説していきます。
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■コスト削減とは?
コスト削減の「コスト(経費)」の部分を分類すると、「オフィスコスト」「エネルギーコスト」「オペレーションコスト」の3つに分けることができます。企業がコスト削減に取り組む際は、この3つのコストを見直していく必要があります。
- オフィスコスト
オフィスコストとは、オフィスの賃料や維持費のほか、コピー用紙代や複合機のリース代、文房具代なども含め、オフィスにおける業務環境を整えるためのコストのこと。3つのコストのなかではもっとも削減しやすく、コスト削減の効果も比較的早く現れます。
たとえば、オフィスの「紙」に関連するコストを削減する場合であれば、以下のような方法が考えられるでしょう。
・両面印刷をする。
・2ページ分を1ページに集約して印刷する。
・カラー印刷は必要最低限とし、モノクロ印刷を基本とする。
・裏紙(一度印刷したコピー用紙などの裏面)を有効活用する。
・社外向けの印刷物は普通用紙を使い、社内向けの印刷物は安価な用紙を使う。
・会議資料はコピーの配布ではなくデータで配布し、各自がPCで参照する。
このようなルールを徹底することで、コピー用紙代や印刷代、インク代やトナー代、ホチキス代やクリップ代といったオフィスコストを削減できます。
- エネルギーコスト
エネルギーコストとは、企業が事業を営むうえで欠かせない電気や水道、ガスなどのインフラにかかるコストのこと。エネルギーコストは毎日のように出ていくので、日々の節約によって大きな削減効果が生まれます。年間の支出額も大きいため、コスト削減の重要なポイントになってきます。
企業のエネルギーコストのなかでも、負担が大きくなりがちなのが照明代です。平均的なオフィスビルの電気代は、約40%が照明によるものだと言われます。照明代を削減する方法として、近年の主流になっているのがLED照明への切り替えです。LEDは白熱電球に比べ消費電力を抑えられるうえ長寿命なので、長い目で見るとコスト削減効果は大きくなります。
また、電気・ガスが自由化されてからは、電気会社・ガス会社を見直すことでエネルギーコストの削減を図る企業も増えています。
- オペレーションコスト
オペレーションコストとは、主に人件費や物流費のことを言います。オペレーションコストのなかでも人件費の削減は多くの企業が課題として捉えており、従業員数が多い企業ほどうまくコントロールしていく必要があります。
人件費を削減する方法としてイメージしやすいのは「リストラ」ですが、リストラはデメリットも大きく、最終手段とも言える方法です。近年、人件費の削減は「働き方改革」とセットで考えられるケースも多く、テレワーク(在宅勤務)やフレックスタイムなど、多様な働き方を取り入れることでコスト削減を図る動きも目立ちます。
たとえば、テレワーク(在宅勤務)を導入すれば、従業員の通勤交通費を削減できるだけでなくオフィスを縮小できるケースもあり、オフィスコストの削減にもつながります。また、早朝勤務やフレックスタイムを導入することで、残業代の削減も見込めるでしょう。
企業がコスト削減に取り組むときに重要なのは、「どのコストを削減するか?」ということです。この点は、「削減効果が大きいコスト」と「削減しやすいコスト」の2つの軸で考えていく必要があります。
- 削減効果が大きいコストを削減する
コスト削減を進める場合はまず、削減効果の大きいコストに着目します。それがどんなコストなのかは企業によって変わってきますが、たとえばコロナ禍でテレワークを導入している企業なら、規模の小さいオフィスに移転することも一つの手です。これにより、オフィスコストのなかでも多くを占める賃料を削減できます。このように、インパクトのあるコストに思い切ってメスを入れる大胆さも必要です。
- 削減しやすいコストから削減する
削減するのが比較的簡単なコストから削減していくのも効果的です。多大な努力が必要で、従業員に負担を強いるようなコスト削減はなかなか成果が上がりません。削減しやすいコストから削減していけば、短期間で成果が現れるので、取り組む従業員もモチベーションを維持しやすくなります。
経理がコスト削減に取り組む必要性
会計学の世界では、企業組織を「プロフィットセンター」と「コストセンター」に分けて説明することがあります。プロフィットセンターというのは、会社に直接利益を生み出す部門のことを言い、具体的には営業部門やマーケティング部門が該当します。一方で、コストセンターというのは直接的に利益を生まない部門のことで、具体的には経理や総務、人事などのバックオフィス部門やコールセンターなどがコストセンターに当たります。
日本企業においては、プロフィットセンターが重視される一方で、経理部門を始めとするコストセンターが軽視される風潮があることは否定できません。もちろん、直接利益を生み出すプロフィットセンターは重要な存在ですが、企業が利益を出し続けるためには売上アップを狙うだけでなく、同時にコスト削減にも取り組まなければいけません。
営業部門は利益を生み出すために活動しますが、経理部門は費用を削減することで利益率の向上を図ります。サッカーに例えるなら、営業部門はフォワードで、経理部門はゴールキーパーだと言えるでしょう。営業が頑張って3点取っても、経理が4点取られたら試合には負けてしまいます。つまり、どれだけ売上をあげようともコストが大きければ赤字になってしまうのです。
経理は直接利益を生み出さない部門ですが、コストの無駄を徹底的に排除していくことで会社に貢献していきます。利益率を向上させ、プロフィットセンターが生み出した利益を無駄なく経営に活かすことこそが、経理がコスト削減に取り組む必要性だと言えるでしょう。
■経理コストの適正値とコスト削減のキーワード
上述のとおり、経理部門の役割の一つがコストを削減することで利益率を向上させることです。それゆえ、経理業務も必要最小限の時間・コストによって成果をあげることが求められます。少数精鋭のスタッフが残業をすることなく、正確かつ滞りなく経理業務をおこなっている状態が理想です。
3,000社を超える企業に経理業務の合理化を提案している「経理合理化プロジェクト®(株式会社 経理がよくなる)」がおこなった調査によると、黒字会社の経理コストは粗利益(売上-仕入・外注費)の2%以内に抑えられていましたが、赤字会社ではほとんどの場合、経理コストが粗利益の4~5%に達していたことが分かりました。
この調査結果からも、企業が業績を向上させるためには、売上を向上させるだけでなく経理コストをいかに削減できるかが重要であることが分かります。「経理コストの削減に取り組んでいるけど、効果を実感できない」という経営者や経理担当者は少なくないと思います。そのような場合は、経理コストと粗利益を比較してみるのがいいでしょう。
もし、経理コストが粗利益4~5%に達しているのであれば、2%以内に抑えることを目標に見直しを図るべき。その際にキーワードになるのが、「ペーパーレス化」「システム化」「標準化」「アウトソーシング」の4点です。
- キーワード01:経理業務の「ペーパーレス化」
経理業務では、数多くの書類を発行・保管していく必要があります。書類の発行・保管を効率化するうえで必須とも言える取り組みがペーパーレス化です。ペーパーレス化を進めることで、大きなコスト削減効果が期待できます。ペーパーレス化の具体的な方法は後述しています。
- キーワード02:経理業務の「システム化」
昨今、経理業務のシステム化が急ピッチで進んでいます。従来の経理業務は、ほとんどの企業でExcelが使われていましたが、最近では、Excelよりも便利で高機能な経理システムが数多く登場しています。システム導入には初期コストがかかりますが、業務効率化によるコスト削減効果を考えると、長期的には大きなメリットが見込めます。システム化の具体的な方法は後述しています。
- キーワード03:経理業務の「標準化」
経理業務の担当者には高度な専門性が求められるうえ、法改正による影響も受けます。そのため、従業員の教育には決して少なくない時間とコストがかかります。このような教育コストを削減するには、マニュアルの整備やシステムの導入によって経理業務の標準化を図るのが効果的です。
- キーワード04:経理業務の「アウトソーシング」
経理業務をアウトソーシングすることで、業務効率化とコスト削減を図る企業も増えています。アウトソーシングを活用するメリットとしては、人件費を変動費化できることや、経理担当者の負担が減りコア業務に集中できることなどが挙げられます。経理業務のアウトソーシングについては、次項でも触れています。
コスト削減は経理部門においても重要な課題です。経理が取り組むべきコスト削減について、効果的な方法を3つご紹介します。
- 01:証憑書類をペーパーレス化する
経理部門においては、請求書や注文書などの証憑(しょうひょう)書類をペーパーレス化することで、大きなコスト削減効果が期待できます。
たとえば、「請求書発行業務」で考えてみましょう。紙の請求書を発行する場合は通常、以下のような手順になります。
「請求データの入力 → プリントアウト → 押印 → 封入 → 宛名書き → 切手貼り → 発送」
ペーパーレス化によって紙の請求書から電子請求書に切り替えると、以下のような手順に変わります。
「請求データの入力 → PDFで出力 → メール添付で送信」
ペーパーレス化すれば、パソコンの前から動くことなく請求書の発行・送付が完了します。そして、ペーパーレス化によって削減できるコストは以下のように多岐にわたります。
▼ペーパーレス化によって削減できるコスト
・印刷コスト
コピー用紙代、印刷代、インク代などを削減できます。
・郵送コスト
切手代、封筒代などを削減できます。
・備品コスト
のり、ボールペン、ホチキス、朱肉、スタンプ台などの備品コストを削減できます。
・保管コスト
請求書や注文書などの証憑(しょうひょう)書類は、法律によって一定期間の保管が義務付けられています(法人の場合は原則として7年間)。紙で保管する場合、ファイルやキャビネット、書庫などが必要になりますが、ペーパーレス化してデータ保管にすれば保管スペースは不要です。書類の保管コストを大幅に削減できます。
・人件費
上述のように、ペーパーレス化によって請求書の発行手順がシンプルになれば、業務効率化が促されます。その結果、残業時間が少なくなるなど、人件費の削減も見込めます。
▼ペーパーレス化のパターンと方法
請求書などの証憑(しょうひょう)書類は、自社で発行した書類の控えも、取引先から受け取った書類の原本も一定期間、保管する必要があります。これらの書類をペーパーレス化する場合、大きく3つのパターンがあります。請求書を前提にご説明します。
① 自社が発行した請求書の控え
自社がコンピュータで作成した請求書の控えは、プリントアウトすることなくオリジナルの電子データで保管できます。電子データで保管する場合は一定の要件をクリアするとともに、事前に税務署長の承認を受ける必要があります。詳細は、国税庁のパンフレットをご覧ください。
② 取引先から受け取った紙の請求書
取引先から受領した紙の請求書は、紙のままで保管できるのはもちろん、スキャナで読み取った電子データや、スマホやデジカメで撮影した電子データで保管することができます。なお、この保管方法は「スキャナ保存」と呼ばれます。スキャナ保存をおこなうには一定の要件をクリアするとともに、事前に税務署長の承認を受ける必要があります。詳細は、国税庁のパンフレットをご覧ください。
③ 電子取引による請求書
メールやインターネットなどを利用した電子取引でやり取りした請求書を、電子データで保管する方法です。電子取引とは、請求書や契約書などの取引情報を電子記録の授受によっておこなう取引のこと。電子取引をおこなった場合は、一定のルールに従って、その電子取引に関する情報を保存しなければいけません(電子帳簿保存法 第10条)。
- 02:経理業務をアウトソーシングする
近年、外部の専門業者や税理士事務所に経理業務を代行してもらう「経理業務のアウトソーシング(経理代行)」が盛んになっています。
経理業務には、単純な入力作業など、高度な判断をともなわないルーティン作業も少なくありません。このような作業に社員が携わっていると、人件費が無駄になりがちです。また、経理業務は会計関連の専門知識が必要になるため、経理担当者の教育コストもかかります。このようなコストは、経理業務をアウトソーシングすることで削減できる可能性があります。
記帳代行や仕訳だけでなく、給与計算や請求書の発行など、自社にとって負担になっている経理業務をピンポイントで代行してもらうことも可能。決算期や年末年始など、繁忙期だけ経理業務のアウトソーシングを活用する企業もあります。
- 03:経理業務をシステム化する
経理業務をシステム化するには初期投資が必要ですが、長い目で見れば、大きなコスト削減効果が期待できます。
経理業務をシステム化すれば、人による手作業を最小限にできるため、作業時間の大幅な短縮が見込めます。たとえば、システム導入前は3人で処理していた業務を一人で対応できるようになるのも、決して大げさな話ではありません。システム化によって業務効率が向上すれば、そのぶん人件費の削減効果も期待できます。
経理関連システムのなかでも、導入企業が多いのは会計ソフトや請求書発行システムなどです。
▼会計ソフト
会計ソフトを導入することで、経理業務を大幅に効率化できます。会計ソフトは様々な製品がありますが、ほとんどの製品に、銀行口座やクレジットカードの明細が自動的に会計ソフト上に反映される機能があります。手入力が少なくなるため作業時間が短縮され、人件費の削減につながります。
▼請求書発行システム
経理業務にはルーティンワークも多く、なかでも負担が大きいのが請求書発行業務だと言われます。請求書発行システムを導入すれば、経理担当者の作業時間が短縮されるほか、会社にいなくても請求書を発行できるようになるので、テレワーク化の推進にもつながります。
経理業務の効率化&コスト削減を支援してくれるシステムは数多くありますが、そのぶん、導入すべきシステムを選ぶのが難しくなっているのが現状です。システムの選定を誤ってしまうと、導入しても定着せず、結局従来のやり方に戻ってしまいます。シェアの高さや料金などで判断するのではなく、自社に合ったシステムを選定することが重要です。
フリーランスとの取引が多い企業には、フリーランスに特化した発注・請求管理システム「pasture」がおすすめ。毎月の請求業務を大幅に効率化し、経理部門にコスト削減効果をもたらす「pasture」の詳細はこちら(https://www.pasture.work/)。
企業がコスト削減を推進するにあたっては、従業員の理解・協力が欠かせません。コスト削減の方法によっては、従業員の反発を招いてしまうケースもあります。また、コスト削減は従業員全員で継続的に取り組んでいくものであり、日々の地道な努力が必要です。そのため、従業員のモチベーション管理が重要になってきます。
- 従業員にもメリットのある方法でコストを削減する
従業員に負担を強いるようなコスト削減方法は、モチベーションの低下を招き、尻すぼみに終わってしまいます。コスト削減は、従業員にもメリットがある方法でおこなうことが重要です。
たとえば、経理部門に経費精算システムを導入すれば、経理担当者の事務処理負担を軽減できるほか、ミスが減少することで問い合わせ対応の時間も削減できます。これは、経理担当者にとって嬉しいメリットであり、モチベーションを引き出すコスト削減方法だと言えるでしょう。
- コスト削減の効果を「見える化」して共有する
コスト削減の目標だけを高らかに宣言しても、取り組みの成果を把握できなければ、従業員のモチベーションは下がってしまいます。従業員のモチベーションを維持するには、コスト削減の効果を「見える化」することが重要です。取り組みの進捗状況や削減金額を従業員に共有して、モチベーションの維持・向上に努めましょう。
コスト削減は、避けて通ることのできない重要な経営課題の一つです。短期間で効果が現れる方法もありますが、基本的にコスト削減は長期戦が前提になります。従業員のモチベーションが途切れないように配慮しながら、コスト削減の効果をより確実なものにしていきましょう。