【イベントレポート】企業とフリーランスの視点からこれからを考える
2020年4月30日にオンラインイベント『withコロナ時代の生存戦略 -企業とフリーランスの視点からこれからを考える』を開催しました。株式会社HARES CEOであり複業研究家の西村創一朗氏、『議論メシ』主宰の黒田悠介氏とともに、企業とフリーランスのこれからのあり方を考えます。
目次
- イベント開催背景
- 今までの「当たり前」が激しく変化
- 優先順位が変わり、「移動時間」「出社」が切札となる
- withコロナ時代の生存戦略
- 質疑応答
- さいごに
1.イベント開催背景
高澤:エン・ジャパン株式会社pasture(パスチャー)事業責任者の高澤です。stand.fmでラジオ配信をするうちに「生存戦略を広く伝え、全員でこの状況を乗り切りたい」と思うようになり、イベントを開催する運びとなりました。
コロナショックに伴う働き方の変化のひとつが、テレワーク。東京商工会議所によると、東京都でのテレワーク推進率は26%、日本全体のテレワーク率は13%です。主にテレワークが進んでいるのはグラフの1番下、従業員300名以上の比較的規模の大きい会社。テレワークを実施できていない会社の約30%も、「オンラインかテレワークを推進したい」という意思は持っています。
このような状況下でも、日経新聞によると紙でのやり取りや押印が必要な企業はテレワークへ移行できていないようです。
ではフリーランスはどうでしょう。もっとも深刻なのは、やはり仕事への影響です。約12%が『決定していた仕事がなくなった』、15%が『仕事内容が変更になった』と回答し、他の統計でも半分以上が『収入にインパクトがある』と答えています。
一方で伸びているのは、ソフトウェア領域やサービス業のDX系のプロジェクト。たとえば飲食店の通販サイトの制作や、中小企業のDX化などを担当されている方は、案件が増えているようです。
これらの前提を踏まえて西村さん・黒田さんと共に、企業とフリーランスの生存戦略についてお話します。
2.今までの「当たり前」が激しく変化
高澤:コロナによる日常の変化、またそれに対してこれから私たちはどう変化すべきかの順にお2人に伺えればと思います。
西村創一朗氏(以下西村):改めまして、複業研究家の西村と申します。一人会社の経営者のため実質フリーランスのような働き方をしており、個人的にもコロナによる影響は受けていますね。HR・人事業界では、新入社員の研修講師を生業にしていた人がもろに影響を受けていて、8割ほど案件がなくなった人もいるようです。
プライベートでいうと、子育て家庭は特にしんどいだろうと感じます。仕事をするスペースがない場合、家のリビングで子どもを見ながら業務を進めなければなりませんから。「コロナ離婚」が話題になっていたように、1日中ずっと一緒にいると夫婦関係もピリピリし始めたりするんですよね。
黒田悠介氏(以下黒田):僕は、歩く時間が減ったことによる運動不足とZoom飲み会による飲酒量の増加で、不健康になってきています。それに今は精神的にも不健康になりやすい状況。コロナに関する情報を摂取しすぎて心を病んでしまうケースもあるようです。情報を受け取らないようにする工夫が重要ですね。
ただ、一緒に過ごす相手によっては心が癒される場合もある。最近はオンラインコミュニティに加入する動きも感じますし、私がやっている『議論メシ』のメンバーもかなり増えてきています。
3.優先順位が変わり、「移動時間」「出社」が切札となる
高澤:今後、時間やお金の使い方はどうシフトするでしょうか。
黒田:時間の使い方については、「直接会う」ことの優先順位が変わりそうですね。今までは「とりあえず打ち合わせで会いましょう」と言っていたものの、これからは直接会う理由がなければオンラインを選ぶようになる。
西村:「コロナがある程度落ち着いても、おそらく完全に元通りにはならない」という話をよく聞きます。アナログとデジタルが逆転した今、オフラインをまったく重視しないわけではなくとも、今までの「打ち合わせ=対面のみ」という式は通用しなくなるでしょう。
黒田:お金の使い方の例でいうと、私は最近コワーキングスペースをすべて解約しました。基本的にはオンラインメインで、リアルで会いたい時はお店を予約して、その時間にお金を使いたいと考えています。
西村:なるほど。今後はおそらく他拠点が当たり前になりますよね。となると、固定のワークスペースの必要性については誰しもが考えなければなりません。それに伴って、オフィスを解約する企業も増えてくるはずです。50人や100人、それ以上の規模の会社がオフィスの退去・縮小をしたり、フルリモートに移行したり。そこまでいかなくても、オフィスに出社するのは週1回にして部署ごとで出社日をローテーションすれば、1,000人の会社でも200人規模の広さで済み、コストを削減できます。
黒田:「バーチャルオフィス」の意味もアフターコロナで変わりそうですね。今まではバーチャルオフィス=登記するための住所として使われていましたが、今後はオンライン上にオフィスができる。西村さんの例でいうと、残りの800人はバーチャルオフィスに出社して打ち合わせをしたり、雑談したりするのかも。
西村:もちろん出社が0にはならないと思いますが、‘‘わざわざ感’’は増えそうですよね。ハレ(非日常)とケ(日常)を分けて、ハレの日だけスペースマーケットで場所を借りて集まるとか。
黒田:移動時間や出社という概念は、「ここぞ」という時の切札になりそうです。
4.withコロナ時代の生存戦略
高澤:次に、withコロナ時代の生存戦略について伺います。僕たちが全員で生き残るためには、どう変化すべきなのでしょうか。
西村:生存戦略は「自分自身を変化させること」。世の中が変わってしまった以上、今までやってきたことに固執せず、新しいチャレンジをする必要があります。なかでも、変化・対応できていると感じたのはカメラマン。基本的には対面ありきのお仕事ですが、蜷川実花さんがZoomで池田エライザさんを撮影して話題になっていました。その一方で、「俺はITが苦手だから」と言ってZoom会議に一切参加しない大手企業の管理職の人もいる。
会社員の多くは、会社の業績が悪化した途端にクビにされたり、給料が半減したりすることは滅多にありません。だからこそ危機感は感じにくいでしょう。一方フリーランスは、お客さんからのお仕事がなくなれば一気に収入0になることもあり得る。そんな中でも「新しいビジネスチャンス」と捉えて、何をすれば人の役に立てるのかを考えて、前を向いて自分を変えていける人は生き残っていけます。企業にせよ、個人にせよ。
黒田:私が生存戦略を一言でいうならば「ローカルシェアリング」。私が使っているローカルなSNS『マチマチ』では、たとえばマスクが売られているお店や幼稚園での取り組み、テイクアウトを始めた飲食店など、今必要なローカルな情報がシェアされています。また、飲食店同士で手を組み、出前サービスを作って配送し合っている商店街もあります
このように大規模なプラットホームを使わなくても、近場の人たちとローカルシェアリングをするだけで解決できる課題は多いんです。自分だけではなくコミュニティで、自分の店舗だけではなく商店街で、自社だけではなく業界で生き残るために、知識や労働力のローカルなシェアリングが必要になる気がしています。
高澤:では組織にフォーカスしていうと、どんな生存戦略が挙げられるでしょうか。
黒田:地域で余っている食材の課題解決をするスタートアップとして、『TASTE LOCAL』が立ち上がりました。聞くとこによると1度も直接会わずに事業を立ち上げ、組織として機能しているのだとか。こういったリモートネイティブ、オンラインネイティブな企業が今後増えるかもしれませんね。実際に会ってからではなく、オンライン上で志を立てて人を集めて、対面したことのない人と起業しプロジェクトを回す世界もあり得ると思うんです。全社的にそうすべきと言いたいわけではないのですが、オンラインなら部署を作ったりオフィスにスペースを設けたりしなくても、新しいことにもっと気軽に挑戦できる。企業としては良いチャンスなるのでは、と考えています。
西村:僕は、リモートドリブンにすべてのプロジェクトを動かせる企業や組織が強くなると思います。リモートドリブンにマネジメントのあり方を考え直せる組織、マネジメントを編み直せる人が社内にいない場合に社外のリソースを活用できる文化のある組織ならば、生き残っていけるでしょう。
5.質疑応答
Q.フリーランスなのですが、コロナの影響で売上0です。どう克服したらいいですか?
黒田:西村さんが仰っていたように、変身が重要です。出張料理人がECで販売をするように、「需要がなくなったのではなくて需要の場所が変わった」と捉えて、自分が戦う場所を変えるべきだと思います。
西村:オンラインでできることを考えてみてください。今まで自分がやってきたこと、培ってきたこと、今のスキルを活かしてオンラインでもできることは何ですか?それらをどう頑張ってもオンラインで活かせないなら一旦諦めて、今ニーズがあることをとにかくやってみましょう。
Q.田舎に住んでいます。仕事相手は年配の方やオンラインに慣れていない方が多く、彼らは新しい働き方についていけません。コロナが落ち着いたら田舎への移住が増えると思うのですが、都会と田舎のギャップについてどうお考えですか?
西村:コロナによる一番大きな影響って、オンラインから始まりオンラインで終わるリモートドリブンになったこと。今は地の利がまったく効かないからこそ、都内外や国内外に関係なく受注できる世の中に変わってきています。
ただ、リモートワーク実施率は全国的にみるとそこまで伸びていません。つまり、地方はリモートワークが進んでいないんです。これでは今すぐに受注することは難しい。地方に住んでいるフリーランスの方、地方で働いている人は「都心の企業からオンラインで受注する方法」を考えていくべきですね。
黒田:地方ならではの課題があるなら、その課題を解決する仕事が生まれる可能性はある。デジタルデバイドを逆手にとって新しい仕事を見出せたら面白いですよね。たとえば年配の方の家にネットを繋いだり、企業と年配の方を繋ぐZoomレポーターをしたり。今後、そういった「IT関係を全部やってくれる地域の御用聞き」「IT便利屋」が地域で活躍するかもしれません。東京から地方に移住する人たちが地域のITリテラシーを底上げする可能性を考えると、ギャップはそこまで広がらないと私はみています。
Q.お店も個人も自己発信がとても重要になると思います。すると、個人レベルでの発言が苦手な人は取り残されます。なにか知見はありますか?
西村:僕にとって、情報発信は自転車と同じです。自転車を最初から乗れる人はいないけれど、乗り続けていればいつか必ず乗れるようになる。情報発信も同様に、最初から天才的な文章を書ける人はいない。情報発信が上手な人の型を真似をしつつ続けていれば、書き方や伝え方が分かってくるし、自分なりの情報発信の型も身についてくるはずです。やっていないからできないだけで、やればできますよ。どうしても苦手意識があるなら、できる人に頼む「巻き込み力」を身につけましょう。
黒田:西村さんの意見に同意です。ただ金銭的に厳しい場合もあると思うので、たとえばお弁当を1年間食べ放題にする代わりに発信をしてもらうなど、物々交換をするのも1つの方法だと思います。今はお金に困窮してる人も多いですから。お金以外で相手に何を与えられるのか、考えてみてはどうでしょうか。
Q.世界のルールがすべて変わってしまうような状況で、黒田さんと西村さんは何に取り組みたいですか?
黒田:今まではオフラインで構築した関係をオンラインで維持する流れでしたが、今後は関係構築から維持までオンラインで行うことが前提になると思っています。そのためのリテラシーを身につける場を作りたいですね。『議論メシ』でいうと、月に20回ほどオンラインで対話のイベントを行い、意見交換をする中で協調関係を築き、一緒にプロジェクトに挑戦できるコミュニティ作りにチャレンジしたいと思っています。個人的には、オンライン上でコラボレーションをして事業を起こしたいです。
西村:まずは、あらゆるイベントや活動のオンラインへの移行、オンラインの最適化をしたいです。3ヶ月で0から複業をプロデュースする『複業版ライザップ』もオンラインで引き続き行っていきます。あとは、リモートドリブンが当たり前になった時代におけるマネジメントのあり方、ピープルエクスペリエンスのあり方を各社にヒアリングしつつ、自分なりに研究を進めていきたいです。
Q.コロナの前から意思疎通がしにくく、自分の意見が通らないと気が済まないメンバーがいて、オンラインでさらに悪化しました。本人にどう伝えるべきでしょうか。
西村:そういうメンバーは実は孤立しているケースが多いので、オンライン化によって孤独感がさらに際立ち、余計に自分の意見に固執しているのかもしれません。「自分の意見を押し通そうとするのはやめよう」と技術課題的なアプローチをしてしまいがちですが、孤独感が根本にあるならば、それを解消しないと課題を解決できません。適応課題の解決方法を学ぶには『他者と働く』という本がオススメ。
黒田:ファシリテーションを過大評価しないことが重要です。声が大きい人が勝つ会議の運営をすると、これまで以上に発言の長さや声の大きさ、権力で物事が決まってしまいます。たとえば時間を決めてみんなでチャットに書き込み、オンラインのホワイトボード上で見える化するなど、ファシリテーション上で工夫できないでしょうか。発言の度合いを他の人とフラットにするファシリテーションの仕方、ツールの使い方があると思います。
Q.今は発注できませんが、景気が回復したら発注したいです。良いフリーランサーを繋ぎとめるにはどうすれば良いですか?
西村:僕の場合、クライアントを選ぶ際にもっとも重視するのは「一緒に仕事をしたいと思える人」かどうか。発注が今は難しいのなら、「今は発注できないけれど景気が回復したら、あるいはコロナが落ち着いて取材ができるようになったら、またお願いしたいです」と率直に伝えてみてはどうでしょう。言葉にして伝えるか否かによって、フリーランス側の思いもまったく違うと思いますよ。
黒田:今の状況下でも、仕事のコミュニケーション以外でこまめに情報共有をしてくれる企業さんとは、関係が長く続くと感じています。発注者と受注者ではなく、人と人としてケアをしてみてはどうでしょうか。
高澤:なるほど、ありがとうございます。素敵な話を聞けてよかったです。お2人とも、本日はありがとうございました。
西村・黒田:ありがとうございました。
6.さいごに
直接会うことの優先順位が変わった今、より本質的な業務に時間を費やせるようになりました。今後はオンライン化が加速し、人との出会いから関係構築・維持はもちろん、起業やプロジェクトのリリースまで「1度も会わずに」行える世界になるでしょう。「コロナで崩れ去った」よりも、「コロナでアップデートされた」という言葉のほうが適切なのかもしれません。
コロナにより社会がアップデートされた今こそ、これまでとこれからを見直す良い機会だと感じられるイベントとなりました。企業もフリーランスも恐れずに、チームのあり方・働き方を柔軟に変化させてみてはいかがでしょうか。
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