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請求書の相殺処理は可能?注意点と仕訳方法を伝授

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同じ取引先に対して10万円の売掛金と10万円の買掛金があるとします。このような状況のとき、御社ではどのような対応をしていますか? 事業者間の取引でお互いに債権・債務を有しているときは、相殺することが認められています。ただし、いつでも相殺できるわけではなく、相殺処理をするためにはいくつかの注意点があります。今回は、相殺処理をするための要件や、相殺した場合の請求書の書き方や仕訳方法などを解説していきます。



請求書の相殺処理は可能?

たとえば、A社がB社に対して10万円の売掛金を有しており、B社もA社に対して10万円の売掛金を有しているとしましょう。このように事業者間で相互に債権・債務を持ち合っている場合、もちろんお互いに10万円を支払い合っても構いませんが、相殺することも認められています。相殺とは、差し引きをして帳消しにすること。債権額・債務額を差し引きして、対当額で消滅させたり減額したりします。

この例では、A社・B社がお互いに10万円の債権・債務を有しているので、相殺することで双方の債権・債務は消滅します。その結果、現金でのやり取りが発生しなくなり、振込などの支払処理にかかる手数料や作業工数を削減できます。また、お互いに売上回収の手間がかからなくなるのもメリットだと言えるでしょう。

双方がお互いに有している売掛金の金額に差があるケースも見ておきましょう。たとえば、A社がB社に対して10万円の売掛金を有しており、B社がA社に対して7万円の売掛金を有しているとします。この場合は、双方で共通している7万円分を相殺することが可能です。相殺するとお互いに7万円分の債権・債務は消滅しますが、A社のB社に対する3万円の債権(B社のA社に対する3万円の債務)は残ります。そのため、B社はA社に現金で3万円を支払う必要があります。

 

相殺の要件

相殺は、当事者どちらかの一方的な意思表示によっておこなうことができます(民法506条1項)。ただ、以下の要件を満たしている必要があります。

①当事者間で互いに債権を有していること

②金銭など同種の目的を有する債権であること

③双方の債務が弁済期にあること(支払期限が到来していること)

特に、③の要件が重要です。A社・B社がお互いに債権・債務を有している場合において、A社からB社への支払期限は7月31日で、B社からA社への支払期限は8月31日だったとしましょう。この場合、B社は8月31日までに支払いをする必要がありますが、逆に考えると「8月31日までは支払いをしなくてもいい」とも言えます。この状況において、たとえば7月31日にA社側から相殺をすることはできません。なぜなら、B社には支払期限(8月31日)が来るまで支払いをしなくていい権利があるからです。B社の債務はまだ弁済期を迎えていないので、③の要件を満たしていないわけです。

一方で、7月31日にB社側から相殺をすることは可能です。相殺する側が自らの権利(8月31日まで支払わなくていい権利)を放棄して支払期限前に相殺をしても、相手方の権利を害することがないからです。

 

ビジネス上、相殺は双方合意のもとで

このように、一定の要件を満たしていれば当事者片方の意思表示のみで相殺をすることができます。しかし、ビジネス上では当事者双方が合意のもとで相殺をするのが通常です。なかには、相殺が可能な場合でも相殺はせず、お互いに支払い(現金のやり取り)をするというルールを設けている会社もあります。同じ取引先に対して売掛金と買掛金が発生しているからといって、自社の判断だけで勝手に相殺処理をするとトラブルに発展してしまうことがあります。相殺ができる状況にある場合は、取引先に対して相殺処理をおこなうかどうかを確認するようにしましょう。

 


相殺処理時の請求書の書き方

相殺処理をすると、支払処理の手間がかからなくなり振込手数料も節約できますが、お金の流れが不透明になりやすいというデメリットもあります。そのため、後になってからでも第三者が相殺処理の内容を把握できるよう、「いつ、どの取引で、どのように相殺処理をしたのか」を記録しておくことが重要です。相殺処理をおこなう場合は、その事実を請求書に記載しておくのがいいでしょう。

たとえば、A社がB社に対して10万円の売掛金を有しており、B社がA社に対して7万円の売掛金を有しているとします。お互いに7万円を相殺する際、A社がB社に発行する請求書は以下のように記載するのが一般的です。

・請求金額:100,000円

・相殺金額:△70,000円

・差引請求額:30,000円

また、通常どおり「請求金額:100,000円」とだけ記載して、備考欄に「相殺金額70,000円を差し引いてお振込みください」などとしても構いません。重要なのは、請求金額がいくらで、相殺金額がいくらで、差引請求額(支払金額)がいくらなのかを双方が認識できることです。

なお、企業によっては請求書の書き方に指定があるケースもあるため、二度手間にならないよう、事前に「相殺の旨はどのように記載するべきか」を確認しておくのがいいでしょう。

 


■相殺処理時は領収書を求められる場合も

相殺処理をおこなった場合、領収書を発行する義務はありません。しかし、相殺をすることでお金の流れが不透明になりがちで、後になってから帳簿が合わなくなるケースもあります。それゆえ、取引内容を明確に残しておくために、取引先から「相殺領収書」の発行を求められる場合があります。

相殺領収書を発行することで、相殺金額や差し引きして残った債権額・債務額が明確になり、支払い時の金額間違いや二重払い・二重請求を防ぐことができます。実際の入出金がなくても、後のトラブルを防止するために相殺領収書を残しておくのがいいでしょう。

 

相殺領収書の書き方

全額相殺の場合と一部相殺の場合に分けて、相殺領収書の書き方をご説明します。

▼全額相殺の場合

お互いに10万円の債権・債務を有しており、その全額を相殺した場合は、双方が同じ金額の相殺領収書を発行します。

・書き方例

領収金額:100,000円

但し書き:「上記金額、相殺しました」「上記金額、売掛金と相殺しました」など

▼一部相殺の場合

取引先に対して10万円の売掛金と8万円の買掛金が発生している場合は、一部相殺となります。この場合も、但し書きに一部相殺の事実を記載します。

・書き方例

領収金額:100,000円

但し書き:「うち80,000円は買掛金と相殺」「相殺金額80,000円を含む」など

なお、相殺金額8万円だけを記載した相殺領収書と、実際に金銭として受領した2万円分の領収書の2枚に分けて発行するケースもあります。

 

相殺領収書に収入印紙は必要?

通常、領収書は「金銭の受取書」として印紙税法の課税文書に該当するため、領収金額が5万円以上であれば、収入印紙を貼り付ける必要があります。しかし、実際に金銭のやり取りが発生していない相殺領収書は「金銭の受取書」とはみなされず、課税文書に該当しません。「上記金額、相殺しました」「上記金額、売掛金と相殺しました」など、相殺領収書であることが明示されていれば、領収金額が5万円以上でも収入印紙を貼り付ける必要ありません。

国税庁のWebサイトにも以下のように記載されています。

(相殺領収書は、)「領収書」「領収」という文言の記載はありますが、相殺による売掛債権の消滅を証明するものであって、金銭の受領事実を証明するものではありませんから、第17号文書(金銭の受取書)には該当しません(基通別表第一第17号文書の20)。

※引用:相殺による領収書|国税庁

ただし、一部相殺の場合は注意が必要です。一部相殺の場合、相殺した金額に関しては印紙税はかかりませんが、差し引いて残った金額に関しては実際に金銭のやり取りが発生しています。つまり、実際に金銭で領収した金額が5万円以上であるなら印紙税が課せられます。収入印紙の貼り付けがない場合、印紙税法違反に問われるおそれがあるため要注意です。

 

相殺領収書は必ず双方が発行する!

相殺処理をしたうえで相殺領収書を発行する場合は、当事者双方が発行して交換するようにしましょう。たとえば、自社だけが相殺領収書を発行し、相手方から相殺領収書を発行してもらっていない場合、自社の債務が消滅したことを証明できる証拠がないことになります。悪意ある相手方に支払いを請求される可能性もゼロではありません。そもそも相殺領収書を発行する義務はありませんが、もし発行するのであれば、必ず当事者双方が発行することが重要です。

 


相殺処理をした場合の仕訳

相殺処理をおこなった場合の仕訳についても押さえておきましょう。A社がB社に対し、10万円の売掛金と7万円の買掛金を有している場合でご説明します。

通常の仕訳

借方 金額 貸方 金額 摘要
売掛金 100,000円 売上 100,000円 B社

 

借方 金額 貸方 金額 摘要
仕入 70,000円 買掛金 70,000円 B社


相殺&精算時の仕訳

買掛金の7万円が相殺され、残金3万円が入金されたときの仕訳は以下のとおりです。

借方 金額 貸方 金額 摘要
売掛金 100,000円
買掛金 70,000円 B社相殺分
預金 30,000円


相殺した場合の仕訳は、摘要欄に「B社相殺分」などと記載しておくと、後々分かりやすくなります。


まとめ~相殺した場合は、請求書や領収書に記録を残す!

ビジネス上、請求書の相殺は事前に当事者双方で合意したうえでおこなうのが通常です。相殺をすると、後になってからお金の流れが不明瞭になりがちなので、その都度、記録を残しておくことが大切です。請求書に相殺の事実を記載したり相殺領収書を発行したりしておけば、経理処理が円滑になるだけでなく、取引先との無駄なトラブル防止にもつながります。

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