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下請法の運用基準が改正!?コスト高騰時の価格据え置きも、下請法違反の対象に

  • 下請法

公正取引委員会は、下請法違反行為に関して集積した事例をもとに分析し、下請法の具体的な運用基準を定めています。運用基準には、下請法違反行為の具体例が明確に示されています。令和4年1月に運用基準が改正され、下請代金にコストを反映しないことは「買いたたき」に当たることが明記されました。今回の運用基準の改正について概要を解説します。



■コストの上昇を反映しない取引は買いたたきにあたるおそれがある

下請事業者は、立場上、コスト上昇を価格転嫁しづらいことが多くありますが、こうしたコスト上昇を反映しない取引は「買いたたき」にあたるおそれがあります。

ここでは、コスト上昇を反映しない取引について、次のとおり説明します。

・コスト上昇を反映するように運用基準が改正された
・運用基準に明記されたコスト上昇に関する事項

順を追って見ていきます。

 

●コスト上昇を反映するように運用基準が改正された

原油価格の高騰や円安の進展を背景に、エネルギーコストや原材料価格の上昇が懸念されるなか、2021年12月27日、内閣官房や消費者庁、公正取引委員会などで構成された「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ(以下、「転嫁円滑化施策パッケージ」)」が取りまとめられています。

この取り組みとして、次の3つを着実に実施していくことが公表されました。

1.「違反行為情報提供フォーム」の設置
2.「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」の改正
3.「よくある質問コーナー(下請法)」の更新

このうち、「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」は、2022年1月26日付で改正され、次のことを明文化しています。

“労務費,原材料費,エネルギーコストの上昇を取引価格に反映しない取引は,下請法上の「買いたたき」に該当するおそれがあること”

つまり、コスト上昇を反映しない取引は、下請法上の「買いたたき」によって下請法違反となるおそれがあるということです。公正取引委員会は、下請法違反の未然防止のため、「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準(以下、「運用基準」)」の周知徹底を図り、違反行為者には厳正に対処していくとしています。

 

(参考・引用)公正取引委員会:「(令和4年1月26日)「パートナーシップによる価値創造のための転嫁パッケージ」

下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準:公正取引委員会 (jftc.go.jp)

(令和4年1月26日)「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」に関する取組について:公正取引委員会 (jftc.go.jp)

 

●運用基準に明記されたコスト上昇に関する事項

従来の運用基準においても、コスト上昇を取引価格に反映しないことが買いたたきに該当するおそれがある旨が定められていました。しかし、「大幅に」という条件があり、コスト上昇が大幅でなければ、買いたたきの対象にはならないとされていたのです。

改定後の運用基準では、「大幅に」という条件が外されたほか、違反行為として「価格交渉に明示的に協議しないこと」「価格転嫁しない場合、書面・メールなどにより通知しないこと」などが盛り込まれています。

コスト上昇が「大幅」でなくても、下請事業者において価格転嫁の必要があれば、親事業者は明示的に協議することが必要となります。また、親事業者は、協議の結果、やむなく価格を据え置く場合でも、書面やメールによる記録を残すべきことが明確化されました。

 

・運用基準(2022年1月26日改定後)

“・労務費,原材料価格,エネルギーコスト等のコストの上昇分の取引価格への反映の必要性について,価格の交渉の場において明示的に協議することなく,従来どおりに取引価格を据え置くこと。

・労務費,原材料価格,エネルギーコスト等のコストが上昇したため,下請事業者が取引価格の引上げを求めたにもかかわらず,価格転嫁をしない理由を書面,電子メール等で下請事業者に回答することなく,従来どおりに取引価格を据え置くこと。”

 

・運用基準(改定前)

“原材料価格や労務費等のコストが大幅に上昇したため,下請事業者が単価引上げを求めたにもかかわらず,一方的に従来どおりに単価を据え置くこと。”

(引用) 公正取引委員会:「(令和4年1月26日)「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」に関する取組について:公正取引委員会(新旧対比表より)


■公正取引委員会からコスト上昇を反映するよう指導される場合がある

転嫁円滑化施策パッケージにより、コスト上昇を反映しない買いたたきを厳正に対処していくため、公正取引委員会は、運用基準の改正とともに次の取り組みを掲げています。

ここでは、次の公正取引委員会の取り組みを解説します。

・公正取引委員会は本改正を厳格に適用する旨を明記している
・買いたたきに関する違反行為情報提供フォームが設置された

順を追って説明します。

 

●公正取引委員会は本改正を厳格に適用する旨を明記している

運用基準の改正により、親事業者には下請事業者に対する価格転嫁について明示的に協議することなどが求められています。公正取引委員会は、改正した運用基準の実施を徹底するため運用基準の周知徹底を図るとともに、下請法違反に厳正に対処していく旨を掲げています。

従来の定期的な書面調査や必要に応じた立ち入り検査、下請かけこみ寺などの相談窓口に加え、新たに設置される次の情報提供フォーラムなど、更なる監視体制を強化しています。

監視体制の下、親事業者が価格転嫁の協議に応じることなく、一方的にコスト上昇を価格に反映しないことが発覚した場合は、公正取引委員会から勧告が行われる可能性があります。また、下請法違反に該当した場合は、違反した行為者、および親事業者である会社に、最高50万円の罰則が課されるおそれがあります。

 

●買いたたきに関する違反行為情報提供フォームが設置された

買いたたきなどの下請法違反行為と疑われる親事業者に関する情報について、匿名で申告できる「違反行為情報提供フォーム(買いたたきなどの違反行為が疑われる親事業者に関する情報提供フォーム)」が公正取引委員会のウェブサイトに設置されました。

違反行為情報提供フォームを通じて、違反行為が疑われる親事業者の情報を公正取引委員会・中小企業庁に提供できる仕組みとなっています。提供された情報は、公正取引委員会における独占禁止法上の優越的地位濫用に関する緊急調査、下請法上の定期調査などに活用されます。

なお、匿名であることから下請事業者にとっては申告しやすい反面、提供した情報の処理状況に対する問い合わせは不可とされています。個別事件の調査を求めるような申告をする場合は、公正取引委員会が設置する「インターネットによる申告」に申告が必要です。

(参考):公正取引委員会「買いたたきなどの違反行為が疑われる親事業者に関する情報提供


■今後の運用基準改正にも注視すべき

下請法の運用基準は、今までも数回改正されており、動向に注視する必要があります。

ここでは、今後の運用基準改正について、次のとおり見ていきます。

・下請法の運用基準は数年ごとに改正されている
・下請法の禁止行為に抵触しないよう注意が必要

順を追って説明します。

 

●下請法の運用基準は数年ごとに改正されている

下請法の運用基準は、2003年、2016年、2022年と数年ごとに改正されてきました。

2022年改正は、原油など原材料価格エネルギーコスト上昇を背景に、コスト上昇分を価格転嫁しづらい環境下で見直しされています。このような社会情勢の変化等を踏まえ、公正取引委員会は、繰り返し見られる違反行為、問題ないと誤認されやすい行為など、違反事例を分析して運用基準を改正しています。

公正取引委員会のこうした取り組みの下、今後も、運用基準は改正されていくものと考えられます。

 

●下請法の禁止行為に抵触しないよう注意が必要

親事業者は、違法性の意識を持たないまま、知らずしらずのうちに下請法違反を行っていることも散見されています。こうした、違法性意識の欠如による下請法違反を未然に防止するためにも、運用基準が定められています。

親事業者における禁止行為の主な内容は、支払期日や書面交付義務、不当減額、買いたたきなどであり、運用基準の改定後も下請法の根本的なことは変わりません。下請法の禁止行為の理解を深めるため、親事業者は下請法の基本規定内容と運用基準を十分に理解するとともに、社会情勢に応じた運用基準の改正に注視すべきでしょう。


■最後に

本記事では、下請代金にコスト上昇を反映しないことが「買いたたき」にあたる旨の運用基準改正について、改正の内容や公正取引委員会における対応、今後注視すべきことを解説しました。
親事業者は、違法性の意識なく下請法違反を行っているケースもあり、公正取引委員会は、運用基準の周知徹底を図り、下請法の違反行為者には厳正に対処しています。
親事業者にあたる企業においては、運用基準を十分な理解の下で動向を注視し、下請法違反とならないよう、コンプライアンスの徹底に努めましょう。

(下請法に関わる資料が欲しい方はこちらよりダウンロードいただけます。)

監修者コメント

下請法については「存在は知っていても、細かいことはよくわからない」事業者が多く、正確に理解されていないケースも散見されます。しかし意外と多くの取引に下請法が適用されるため、気づかないうちに違法行為を行ってしまう親事業者も少なくありません。違反すると公正取引委員会によって勧告を受けるだけではなく違法事例として全国に公表され、社会的信用を失うリスクも発生します。思わぬ不利益を避けるため、下請法の基本的な規定内容や運用基準の内容を理解して、法令遵守を徹底しましょう。

■本記事の監修者
福谷陽子/元弁護士 兼 監修ライター

保有資格:司法試験合格、簿記2級、京大法学部在学中に司法試験に合格。10年にわたる弁護士実務経験とライティングスキルを活かして不動産メディアや法律メディアで精力的に執筆中。不動産については売買、賃貸、契約違反、任意売却、投資、離婚、相続、解体や許認可等、あらゆる分野に精通。

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