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資本金1000万円を超えたら下請法の対象となると想定し対策しよう

  • 下請法

自社の資本金が1000万円を超えたら、第三者への業務委託は下請法の対象となるものと認識しておいた方が良いです。下請法の対象となると、支払期日の60日以内の設定や発注書面の作成・交付などが義務化されます。下請法の対象となると公正取引委員会の監督下に置かれます。ここでは、下請法の対象となる取引について解説します。



■下請法の対象となる取引

下請法の対象となる取引は、次の4つの委託業務です。ここでは、それぞれどのような取引が対象であるか説明します。

・製造委託
・修理委託
・情報成果物作成委託
・役務提供委託

順を追って見ていきます。

 

●製造委託

製造委託とは、物品の販売、あるいは製造を業とした事業者が、規格・品質・形状・デザイン・ブランドなどを指定して、他の事業者に製造・加工業務を委託することを指します。下請法の規制対象です。

具体例①:自動車メーカーが自動車部品の製造・加工を他の部品メーカーに委託するケース

具体例②:PC等の精密機器メーカーに精密部品の製造・加工を他の精密部品メーカーに委託するケース

 

●修理委託

修理委託とは、物品の修理を業としている事業者が、修理の全て、あるいは一部を他の事業者に委託することを指します。下請法の規制対象です。

具体例①:自動車ディーラーが請け負った自動車の修理を修理事業者に委託するケース

具体例②:自社設備を自社内で修理しているメーカーが他の修理事業者に委託するケース

 

●情報成果物作成委託

情報成果物作成委託とは、プログラムや映像コンテンツ、設計図やデザインなどの情報成果物を業としている事業者が、その作成の全て、あるいは一部を他の事業者に委託することを指します。下請法の規制対象です。

具体例①:出版社が書籍・コンテンツ制作を編集プロダクションに委託するケース

具体例②:コンサルティングサービス事業者からレポート作成をコンサルタントに委託するケース

 

●役務提供委託

運送やビルメンテナンス、顧客サポートなど各種サービス提供を業としている事業者が。請け負った役務(サービス)を他の事業者に委託することを指します。下請法の規制対象です。

具体例①:貨物運送業者が、請け負った貨物運送業務のうち一部経路の業務を委託するケース

具体例②:コンサルティングサービス事業者からコンサルティング業務(情報成果物作成を伴わない)をコンサルタントに委託するケース

 

(参考)中小企業庁:「下請適正取引等推進のためのガイドライン

(参考)日本書籍出版協会:「ガイドライン(出版社における改正下請法の取り扱いについて)

(参考)日本デザイン事業共同組合「下請代金支払遅延等防止法(デザイン版)Q&A_01


■下請法の対象は取引当事者の資本金区分と委託内容によって決まる

下請代金支払遅延等防止法(以下、「下請法」)は、委託取引において必ず該当するものではなく、取引業者における資本金の区分と委託内容によって決まります。

ここでは、資本金区分における下請法の対象となるケースを説明します。

・親事業者が資本金総額3億円を超える事業者である場合
・親事業者の資本金総額が1千万円を超え3億円以下である場合
・親事業者が資本金総額5千万円を超える事業者である場合
・親事業者の資本金総額が1千万円を超え5千万円以下である場合
・子会社を通した取引も対象となる

順を追って説明します。

 

・ 製造委託・修理委託のケース

取引内容が製造委託・修理委託のケースでは、次の資本金区分によって、下請取引を判断します。なお、下請事業者には、いずれもフリーランスなどの個人事業主も含みます。

 

・ 親事業者が資本金総額3億円を超える事業者である場合

資本金3億円を超える親事業者においては、下請事業者が資本金3億円以下の下請事業者(個人事業主含む)に委託する場合に、下請法の規制対象となります。

 

・ 親事業者の資本金総額が1千万円を超え3億円以下である場合

資本金1千万円超3億円以下の親事業者においては、下請事業者が資本金1千万円以下の下請事業者(個人事業主含む)に委託する場合に、下請法の規制対象となります。

 

・ 情報成果物作成委託・役務提供委託のケース

取引内容が情報成果物作成委託・役務提供委託のケースでは、次の資本金区分によって、下請取引を判断します。なお、下請事業者には、いずれもフリーランスなどの個人事業主も含みます。

 

 ・ 親事業者が資本金総額5千万円を超える事業者である場合

資本金5千万円超の親事業者においては、下請事業者が資本金5千万円以下の下請事業者(個人事業主含む)に委託する場合に、下請法の規制対象となります。

 

・ 親事業者の資本金総額が1千万円を超え5千万円以下である場合

資本金1千万円超5千万円以下の親事業者においては、下請事業者が資本金5千万円以下の下請事業者(個人事業主含む)に委託する場合に、下請法の規制対象となります。

 

・ 子会社を通した取引も対象となる

親会社が子会社を通じて下請事業者と取引する場合、たとえ、子会社が親事業者としての資本金区分に該当してなくても、いわゆる「トンネル会社規制」により、その子会社が親事業者とみなされる可能性があります。

たとえば、「資本金5千万円超」の親事業者が「資本金5千万円以下」の子会社を通じて、「資本金5千万円以下」の下請事業者に委託した場合を考えます。子会社と下請事業者は資本金5千万円以下同士となることから、それだけで見ると下請法の規制対象となりません。しかし、親会社が子会社を実質的に支配し、かつ相当部分の業務を委託しているといった一定の条件を満たす場合、トンネル会社規制に該当し、子会社が親事業者とみなされ、下請法の規制対象となります。

トンネル会社規制の具体的な条件は次のとおりです。

・親会社が実質的に子会社を支配していること(親会社が子会社の過半数の議決権を有するなど)
・親会社からの委託額(または量)の全部または相当部分を子会社が下請事業者に再委託していること


■下請法の対象となると公正取引委員会の監督を受ける

公正取引委員会及び中小企業庁は、定期的な書面調査や勧告を行うなど下請法違反を厳しく取り締まっています。ここでは、公正取引委員会及び中小企業庁における監督内容、下請法の罰則について次のとおり説明します。

・下請事業者は公正取引委員会、中小企業庁に通報・相談することができる
・違反行為に対しては罰則が適用されるリスクもある

順を追って解説します。

 

●下請事業者は公正取引委員会、中小企業庁に通報・相談することができる

下請法は、下請取引公正化を目的に、公正取引委員会によって、取引当事者からの取引状況報告、勧告・調査等を行えると定めています。(下請代金支払遅延等防止法 | 第7~9条

これに基づき、公正取引委員会及び中小企業庁は、下請取引が公正に行われているかを監督しています。毎年、親事業者・下請事業者に対して書面調査を実施するほか、必要に応じた立ち入り検査などを行っています。下請法に違反した親事業者に対しては、取りやめや原状回復、再発防止などの勧告のうえ、公表するなどの措置も行われます。

また、中小企業庁では、中小企業を対象に、企業取引や下請法に詳しい相談員や弁護士が無料で相談できる「下請かけこみ寺」を全国48箇所に設置しています。

紛争相手先への連絡せず匿名でも相談可能で、安心して相談できる体制が整っています。

(参考)中小企業庁:「下請かけこみ寺

 

●違反行為に対しては罰則が適用されるリスクもある

親事業者が下請法における次の違反行為を行った場合、親事業者である会社はもちろん、違反者である個人も罰則の対象となります。罰則は、上限50万円の罰金刑です。(下請代金支払遅延等防止法 | 第10~12条

・書面交付義務違反
・書類作成・保存義務違反
・報告拒否・虚偽報告
・立入検査の拒否や妨害、忌避

下請法違反が発覚するきっかけは、毎年の書面調査や下請事業者による申し立てを受けて行われる親事業者に対する調査などです。違反事実が発覚すると公表されますが、公表された企業は、下請法違反のレッテルを貼られ社会的評価が下がり、企業価値が低下するなどの損失を受けるでしょう。


■禁止行為を回避して下請法への対策をしましょう

下請法は、違反すると会社や行為者が罰則を受けるほか、公表により企業価値を損なうように親事業者に大きな打撃を与える可能性があります。

ここでは、下請違反とならないよう、親事業者が下請法で遵守すべき項目や、知っておくべき下請法の違反行為を次のとおり解説します。

・下請法で遵守すべき項目
・下請法に違反する行為

順を追って説明します。

 

●下請法で遵守すべき項目

下請法では、下請取引の公正化と下請事業者の利益確保を目的に、次の4つの義務を親事業者に課しています。

・発注時の書面の交付義務(第3条)
・60日以内の支払期日を定める義務(第2条2)
・書類の作成・保存義務(第5条)
・遅延利息の支払義務(第4条2)

親事業者は、「法に定める事項すべてを直ちに書面交付する」「納品から60日以内でできる限り短い期間内で支払期日を定める」「委託内容などの書面を作成して2年間保管する」「支払遅延したときは、納品から起算して60日経過以降、年率14.6%の遅延利息を支払う」といった義務が課されています。

 

●下請法に違反する行為

親事業者は、次の11項目が下請取引における禁止行為として義務付けされています。たとえ、親事業者が違法性を認識していない、あるいは下請事業者が合意していても、下請法違反は免れません。

・発注した物品等の受領拒否(4条第1項第1号)
・下請代金の支払期日を超えた支払い遅延(第1項第2号)
・予め定めた下請代金の減額(第1項第3号)
・受け取った物品等の返品(第1項第4号)
・著しく不当な買いたたき(第1項第5号)
・親事業者が指定する物品等の購入・利用の強制(第1項第6号)
・親事業者の不正行為報告等に対する報復措置(第1項第7号)
・資金繰りを困窮させる有償支給原材料等の対価の早期決済(第2項第1号)
・金融機関における割引困難な手形の交付(第2項第2号)
・下請事業者から不当な経済上の利益の提供要請(第2項第3号)
・不当な給付内容の変更及び不当なやり直し(第2項第4号)

物品の受領拒否や不当減額、不当返品、不当な買いたたき、下請事業者に対する物品等の購入強制など、下請事業者の利益を不当に害する行為が下請法で禁止されています。

下請法に定める下請取引における親事業者の義務や禁止行為を具体的に知りたい方は、公正取引委員会が発行する次のガイドブックをご参考ください。

(参考)公正取引委員会:「知るほどなるほど下請法

 

その他、本章に関する参考先は次のとおりです。

(参考)公正取引委員会:「下請法とは

(参考)e-Gov法令検索:「下請代金支払遅延等防止法 | e-Gov法令検索


■最後に

本記事では、下請法の対象となる取引や条件、公正取引委員会等の監督内容のほか、親事業者における法津上の義務や禁止行為について解説しました。

公正取引委員会及び中小企業庁は、下請取引公正化を目的に、毎年、書面調査や必要に応じた勧告をする、あるいは下請かけこみ寺などの相談体制を設けるなど、下請法違反を厳しく取り締まっています。

不当な下請取引によって企業価値を損なうことがないよう、下請法の正しい対象判断の下、親事業者としての義務、禁止行為を正しく理解し、コンプライアンス徹底に努めましょう。

下請法に関わる資料が欲しい方はこちらよりダウンロードいただけます。

監修者コメント

資本金額が1000万円を超えると、取引に下請法が適用される可能性があります。下請法が適用されると親事業者には書面作成や下請事業者への交付、2年間保存などの義務を課されますし、下請業者に対しての禁止行為も多数存在します。違法行為をすると公正取引委員会によって調査や勧告を受けたり事実を公表される可能性もありますし、下請法には罰則も用意されています。下請法の定める内容を正しく理解して、くれぐれも違反しないように注意しましょう。

 

■本記事の監修者
福谷陽子/元弁護士 兼 監修ライター

保有資格:司法試験合格、簿記2級、京大法学部在学中に司法試験に合格。10年にわたる弁護士実務経験とライティングスキルを活かして不動産メディアや法律メディアで精力的に執筆中。不動産については売買、賃貸、契約違反、任意売却、投資、離婚、相続、解体や許認可等、あらゆる分野に精通。

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