リモートワーク(テレワーク)の書類提出の課題とその解決方法
働き方改革の一環としてリモートワークが推進されていますが、リモートワークの導入に成功している企業ばかりではありません。リモートワークを阻害する大きな要因となっているのが日本の商習慣である「紙文化」「ハンコ文化」であり、「請求書をプリントアウトして印鑑を押さなければ発送できない」「稟議書に上司のハンコをもらわなければいけない」といった理由で出社せざるを得ないケースも多いようです。今回は、リモートワークにおける書類&ハンコ問題の解決方法を解説していきます。
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多様化する働き方の象徴とも言えるリモートワーク(テレワーク)ですが、2020年に関しては新型コロナウイルス(COVID-19)の流行により、感染防止対策としてリモートワークを取り入れる企業が相次いでいます。
リモートワークとは、オフィスに出社せず自宅などで仕事をするスタイルのことですが、実際に導入した企業では、「請求書をプリントアウトして印鑑を押さなければ発送できない」「稟議書に上司のハンコをもらわなければいけない」といった理由で従業員が出社せざるを得ないケースが散見されたようです。
2020年2月にアドビ株式会社が実施した調査でも、「紙の書類やハンコのために出社」の実態が明らかになっています。
●質問「テレワーク中に、紙書類へのサインやハンコの捺印などのために出社した経験がありますか?」 「頻繁にある」が21.4%、「ときどきある」が42.8%と、全体の64.2%がリモートワーク中にもかかわらず出社していることが分かりました。 ●質問「テレワークを実施して感じた業務上の課題を教えてください」 「会社にある紙の書類をすぐに確認できない」(39.6%)、「プリンターやスキャナーがない」(36.2%)、「稟議や書類処理が遅れる(経費申請・処理が大変)」(23.2%)など、紙の書類にまつわる課題が多くあげられました。 |
※ 参考:アドビ「テレワーク勤務のメリットや課題に関する調査結果(2020年)」
この他にも、リモートワークの導入によって「稟議などのワークフローが滞る」「セキュリティリスクが高まる」などの問題も指摘されています。
稟議などのワークフローが滞る
リモートワークを導入することで、稟議などのワークフローにおける申請・承認業務が滞るおそれがあります。というのも、一般的な企業のワークフローは、関係者が社内にいて書類をベースにやり取りすることが前提になっているからです。
たとえば、稟議書や申請書、契約書などを紙でやり取りしている会社がリモートワークを導入したら、どうなるでしょうか? 印刷した書類を郵送して承認をもらい、ハンコを押して返送してもらい、また次の承認者に・・・というように非効率きわまりなく、承認がおりるまでに時間もかかります。社内に関係者がいれば、書類を手渡したり承認をもらうために催促したりできますが、リモートワークではそのような対応ができません。リモートワークを導入するには、リモートワークを前提としたワークフローに変更する必要があります。
セキュリティリスクが高まる
オフィス内のパソコンは社内ネットワークに接続されており、通常、外部のインターネットからはファイアウォールやIPSなどによって保護されています。ですが、リモートワークでは各従業員が直接インターネットに接続するようになるため、セキュリティリスクが高まります。特に公共Wi-Fiは傍受されるリスクも高く、通信内容やデバイス上の様々な情報が漏洩してしまう事故も起きています。
また、従業員個人のパソコンで会社の業務をおこなう場合も注意が必要です。パソコンがウイルスに感染する可能性もありますし、個人で使うクラウドサービスなどで誤って業務上の機密情報を共有してしまうリスクも考えられるでしょう。
会社から書類や印鑑を持ち出す際や、USBなどで機密情報を持ち出す際もセキュリティリスクが高まりますし、端末の紛失・盗難にも注意しなければいけません。
新型コロナウイルスという予期せぬ感染症の流行によって、準備期間もないままリモートワークに踏み切った企業は少なくありません。ですが、準備不足でのリモートワークは業務効率化につながらないどころか、生産性の低下や従業員のモチベーション低下を招いてしまうこともあります。
リモートワークの準備として、PCやタブレット、スマートフォンなどのデバイスと、Wi-Fiなどのインターネット環境が必要になるのは言うまでもありません。それ以外にポイントになってくるのが、紙の書類の電子化と、リモートワークを効率化してくれる各種システムの導入です。
紙の書類をリストアップしよう
リモートワークを円滑に進めるためには、紙の書類の電子化が欠かせません。ですが、あらゆる書類を一斉に電子化するのは不可能であり、優先順位の高い書類から段階的に電子化していくのが現実的です。紙の書類を電子化する準備としては、社内でどのくらい紙を使った業務が発生しているかを把握することから始めましょう。
まずは、社内で使用・保管されている書類をすべてリストアップします。営業部であれば受注書・発注書や契約書、人事部なら従業員の入社・退社に関わる書類、経理部なら決算書や請求書、領収書などが考えられます。その他、社内向けの資料などは多岐にわたるでしょう。一般的な会社で作成・保管される主な書類は、以下のとおりです。
▼帳簿類
総勘定元帳、仕訳帳、現金出納帳、売掛金・買掛金元帳固定資産台帳、売上・仕入帳 など
▼決算関係書類
棚卸表、貸借対照表、損益計算書、その他決算に関して作成した書類 など
▼証憑類
契約書、領収書、見積書、請求書、注文書、契約の申込書、納品書、検収書 など
▼その他
提案資料、パンフレット、会議資料、提案書、報告書、議事録、業務マニュアル、履歴書、職務経歴書、稟議書、申請書、定款 など
このようにすべての書類をリストアップしたら、それぞれの書類に目を向け、以下のような観点から電子化の妥当性や重要度を検討してみましょう。
・紙でプリントアウトする必要はあるかの?
・電子化することで、どんなメリット・デメリットがあるのか?
・誰が、どんなワークフローで作成・承認しているのか?
・電子化することで、どんな業務をリモートワーク化できるのか?
・どこに、どのくらい保管されているのか?
・月間の作成量はどのくらいか?
様々な観点から各書類の現状を把握することで、どの書類からどんな手順で電子化するのが効率的なのか、といった優先順位が見えてくるでしょう。
電子化する書類の優先順位を間違えてしまうと、「手間・コストがかかったわりに、効果はいまいち・・・」といったリスクもあります。最初の電子化が失敗してしまうと、他の書類の電子化も及び腰になってしまいます。それだけに、準備段階における優先順位付けは重要です。
オフィスでの働き方をそのままリモートワークに移行しようとしたとき、まず大きな壁として立ちはだかるのが「紙の書類」です。書類の確認のために出社したり、ハンコを押すために出社したりしていたら、場所を選ばずに働けるリモートワークの意味がありません。リモートワークを導入するにあたっては、紙の書類の電子化・デジタル化は必須だと言えるでしょう。
理想はすべての書類を電子化することですが、一気にシフトするのは現実的ではありません。まずは、契約書や注文書、請求書など、重要度が高くかつ使用頻度の高い書類を優先的に電子化していくのがいいでしょう。
企業が紙の書類を電子化するメリットとしては、一般的に以下のような点が挙げられます。
- 業務効率化を実現できる
取引先との書類のやり取りが紙ベースだと、印刷してハンコを押して、封入して郵送するといった手間がかかります。電子化すればメールなどに添付して送信するだけで済むので手間がかからず、作業効率が向上します。紙のように郵送によるタイムラグが生じることもありません。
なお、電子化された書類には「電子印鑑」が押されるのが一般的です。電子印鑑については以下の記事で詳しく解説しています。
>> 請求書に電子印鑑は使用可能?電子印鑑の法的効力は? – pasture
- コストを削減できる
書類を紙で管理していると用紙代や印刷代、郵送費など様々なコストがかかりますが、電子化することでこれらのコストは削減できます。また、紙の書類は保管に場所をとりますが、電子化していれば会社の共有フォルダやクラウドなどに保管できます。書庫やキャビネットのスペースが不要になり、大幅なコスト削減につながるでしょう。
- アクセスしやすい
書類を紙で管理していると、「あの書類はどこにある?」といったことが起こりがちですが、電子化していればそんな心配は無用です。検索性が向上するので目当ての書類をスムーズに見つけられます。また、紙の書類のように誰か一人が持ち出していたら他の人が参照できないということもありません。複数人・複数拠点からいつでもアクセスできるので、情報共有のスピードも早くなります。
- 経年劣化や災害リスクがない
紙の書類は、どうしても経年劣化が起こりますし、自然災害による毀損・消失のリスクもゼロではありません。一方、電子化した書類なら経年劣化を心配する必要はなく、容易にバックアップがとれるので万が一の災害時も安心です。
- 環境負荷の低減に貢献できる
書類の管理を紙から電子データに切り替えることで、環境負荷の低減に貢献でき、限りある資源を有効活用できます。ペーパーレス化は、SDGsに取り組むうえでも重要なアクションの一つになってきます。
リモートワークを成功させるには、オフィスで作業をしているのと変わらない環境を整える必要があります。そのために導入したいのが各種システム・ツールです。遠隔でのコミュニケーションを円滑にできるシステムや、どこにいてもワークフローの申請・承認ができるシステムなどの導入を検討してみましょう。
- リモートワークにおすすめのシステム・ツール
▼ビジネスチャットツール
リモートワークの従業員同士が円滑なコミュニケーションを図るために欠かせないのが、ビジネスチャットツールです。テキストでのメッセージ送信やファイル添付のほか、ビデオ通話機能やファイル管理機能、タスク管理機能などを備えているものもあります。
ビジネスチャットツールの製品としては、「Chatwork」「Slack」などが有名です。
▼Web会議システム
PC内蔵のカメラや外付けのカメラなど使って複数人でテレビ電話ができるWeb会議システムも、リモートワークには欠かせません。社内のミーティングだけでなく、商談や取引先との打ち合わせにも活用することができます。
Web会議システムの製品としては、「Zoom」「Microsoft Teams」などが有名です。
▼電子契約システム
電子契約システムは、インターネット上で電子契約書に署名・押印をして契約を締結するシステムのこと。紙の契約書に印鑑を押して郵送するのではなく、インターネット上で契約の締結や契約書の受け渡しをすることができます。
電子契約システムの製品としては、「クラウドサイン」「ドキュサイン」などが有名です。
▼ワークフローシステム
ワークフローシステムとは、主に稟議書や申請書、報告書など電子化された書類を申請者から決裁者、承認者へと自動的に回していき、決裁・承認のプロセスを迅速に進めるシステムです。クラウド型のワークフローシステムを導入すれば、リモートワークでもワークフローの処理に対応でき、書類の申請・承認がWeb上で完結します。
ワークフローシステムには様々な製品・サービスがありますが、フリーランスとの取引が多い企業には「pasture」がおすすめです。発注書や請求書の社内承認(担当者・上長・経理)が可能で、「Chatwork」「Slack」などのビジネスチャットツールや、電子契約システム「クラウドサイン」との連携も可能な「pasture」の詳細はこちら。
▼請求書発行システム
アナログで非効率な請求書業務から脱却するには、請求書発行システムがおすすめです。電子請求書を発行してメールで送信できるのはもちろん、紙の請求書の郵送代行機能を備えたシステムもあります。クラウド型の請求書発行システムなら、リモートワークでも請求書の作成・承認が可能。請求書にハンコをもらうために出社するようなことはなくなります。
■まとめ~電子化&システム活用でリモートワークの土台を作ろう~
紙の書類の確認やハンコを押すために出社が必要になるのでは、リモートワークを導入した意味がありません。リモートワークによって業務効率化を図り、従業員満足度を高めるためには、土台となる環境づくりが必要です。段階を踏んで紙書類の電子化を進めるとともに、自社だけでなく取引先の利便性なども考慮して、必要なシステム・ツールの導入を検討していきましょう。