【弁護士が解説】フリーランスに発注する企業の下請法違反事例|違法・適法の境界線は?
フリーランスと取引のある企業は、「下請法(正式名称:下請代金支払遅延等防止法)」に基づく親事業者の禁止行為を犯さないように注意が必要です。
今回は、企業とフリーランスの取引において問題になりやすい下請法違反の事例をまとめました。
禁止行為の類型ごとに、違反に当たる場合・当たらない場合の例を挙げて解説しますので、企業がフリーランスと取引を行う際の参考にしてください。
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CONTENTS
下請法違反事例①|受領拒否
親事業者は原則として、下請事業者による納品やサービス提供の受領を拒むことはできません(下請法4条1項1号)。
ただし、下請事業者の責に帰すべき理由がある場合には、納品やサービス提供の受領拒否が認められます。
<事例①>
ウェブサイト運営会社が、フリーランスライターに対して、記事制作を発注した。
<受領拒否:下請法違反に当たる場合の例>
ライターはレギュレーション通りに原稿を作成して納品したが、ウェブサイト運営会社は自社都合で記事制作が不要になったことを理由に、原稿の受領を拒否した。
<受領拒否:下請法違反に当たらない場合の例>
ライターは原稿を作成して納品したが、重大なレギュレーション違反が複数発見されたため、ウェブサイト運営会社は原稿の受領を拒否した。
下請法違反事例②|支払遅延
親事業者は、支払期日までに下請代金を支払わなければならず、支払遅延は下請法違反となります(下請法4条1項2号)。
下請代金の支払期日は、納品日・サービス提供日から60日以内、かつできる限り短い期間内において定めなければなりません(同法2条の2第1項)。
ただし、契約に従った納品やサービス提供が完了していない場合には、支払期日が未到来となるため、下請代金の支払いを保留することが認められます。
<事例②>
不動産会社が、フリーランスウェブデザイナーに対して、広告宣伝用のウェブサイト制作を発注した。
<支払遅延:下請法違反に当たる場合の例>
ウェブデザイナーは、事前に合意した仕様に従い納品を行ったが、不動産会社が資金難を理由に支払いを遅延し、報酬が支払われたのは納品から120日後だった。
<支払遅延:下請法違反に当たらない場合の例>
ウェブデザイナーは成果物を納品したものの、事前に合意した仕様との間で重大な齟齬があったため、不動産会社はやり直しを指示した。
最終的に報酬が支払われたのは初回納品の120日後だったが、検収完了日から見ると30日後であり、当初の契約どおりだった。
下請法違反事例③|下請代金の減額
親事業者は原則として、下請代金を減額してはいけません(下請法4条1項3号)。
ただし、下請事業者の責に帰すべき理由がある場合には、下請代金の減額が認められることがあります。
<事例③>
SIer会社が、フリーランスエンジニアに対して、顧客先企業に納品するシステムの開発を発注した。
<下請代金の減額:下請法違反に当たる場合の例>
エンジニアに対する正式発注後、顧客先企業の都合で開発代金を減額されたことを理由として、SIer会社が一方的に、エンジニアに支払う報酬を減額した。
<下請代金の減額:下請法違反に当たらない場合の例>
エンジニアによる納品が遅延した結果、顧客先企業に損害が生じた。SIer会社は契約に従い、顧客先企業に対する損害賠償相当額を、エンジニアに支払う報酬から控除した。
下請法違反事例④|返品
親事業者は原則として、下請事業者が納品した商品を返品してはいけません(下請法4条1項4号)。
ただし、下請事業者の責に帰すべき理由がある場合には、納品物の返品が認められることがあります。
<事例④>
動画制作会社が、フリーランス声優に対して、動画内で使用するボイスの録音を発注した。
<返品:下請法違反に当たる場合の例>
声優は、動画制作会社の指示どおりにボイスを録音したファイルを納品したが、「想像していた声質とは違った」という一方的な理由で、動画制作会社が声優にファイルを返品した。
<返品:下請法違反に当たらない場合の例>
正式発注前の段階で、声優が動画制作会社に提供したサンプルボイスが別人のものだった。納品されたボイスがサンプルボイスの声質とかけ離れていたため、動画制作会社が声優にファイルを返品した。
下請法違反事例⑤|買いたたき
親事業者は、通常支払われる対価に比べて、著しく低い下請代金を定めてはいけません(下請法4条1項5号)。
「通常支払われる対価」は、同種または類似の納品物やサービスを基準に決定されます。
<事例⑤>
動画制作会社が、フリーランスアニメーターに対して、アニメ動画の制作を発注した。
<買いたたき:下請法違反に当たる場合の例>
動画の長さ・コマ数・作画の密度などを考慮すると、40万円程度の対価が相当と考えられるにもかかわらず、制作対価が5万円と定められた。
<買いたたき:下請法違反に当たらない場合の例>
動画の長さだけを考慮すると40万円程度の対価が標準的だが、作画が通常に比べてかなりシンプルであることを考慮して、制作対価が20万円と定められた。
下請法違反事例⑥|購入・利用強制
親事業者は下請事業者に対して、親事業者が指定する物やサービスの購入・利用を強制してはいけません(下請法4条1項6号)。
ただし、正当な理由がある場合は、親事業者が指定する物やサービスを、下請事業者に購入・利用させることも認められる余地があります。
<事例⑥>
イベント企画会社が、取引のあるフリーランスに対して、ノルマを設けてイベントチケットを購入させた。
<購入・利用強制:下請法違反に当たる場合の例>
何ら正当な理由なく、イベント企画会社の収益を向上させることだけを目的として、イベントチケットの購入ノルマを設けた。
<購入・利用強制:下請法違反に当たらない場合の例>
フリーランスへの発注契約において、イベントチケットの販売実績に応じたインセンティブ報酬が適切な形で定められていた。
下請法違反事例⑦|不当な経済的利益の提供要請
親事業者は原則として、下請事業者に対して、親事業者のために金銭・サービスその他の経済上の利益を提供させてはいけません(下請法4条2項3号)。
ただし、下請事業者の利益を不当に害しない場合には、親事業者のために金銭・サービスその他の経済上の利益を提供させることも認められる余地があります。
<事例⑦>
工芸品のショールームを運営する会社が、フリーランスの工芸家に対して、展示用の工芸品を提供させた。
<不当な経済的利益の提供要請:下請法違反に当たる場合の例>
工芸家にとって何のメリットもなく、無償で工芸品を提供させた。
<不当な経済的利益の提供要請:下請法違反に当たらない場合の例>
工芸品の提供自体は無償だったが、工芸家が開催する予定の個展の宣伝をしてもらえることになっていた。工芸品もシンプルなものであり、制作にかかる時間も1時間程度だった。
下請法違反事例⑧|不当な給付内容の変更・不当なやり直し
親事業者は原則として、一方的に下請事業者による納品やサービス提供の内容を変更したり、下請事業者に納品やサービス提供をやり直させたりしてはいけません(下請法4条2項4号)。
ただし、下請事業者の責に帰すべき理由がある場合には、納品・サービス提供の内容変更ややり直しを指示することが認められます。
<事例⑧>
SNSを運営する事業会社が、フリーランスイラストレーターに対して、アイコンに使用するイラストの制作を発注した。
<不当な給付内容の変更・不当なやり直し:下請法違反に当たる場合の例>
イラストレーターは、当初合意した仕様に従ってイラストを納品したが、事業会社が一方的に仕様の変更を主張し、納品のやり直しを指示した。
<不当な給付内容の変更・不当なやり直し:下請法違反に当たらない場合の例>
イラストレーターが納品したイラストは、当初合意した仕様との間で重大な齟齬を含んでいたため、事業会社は納品のやり直しを指示した。
まとめ
親事業者が下請法違反を犯すと、フリーランスとの間で深刻なトラブルを生じかねません。
フリーランスと取引のある企業は、取引の過程において、下請法違反に当たり得る行為が含まれていないかを再確認することをお勧めいたします。
ライタープロフィール
<阿部由羅氏>
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。注力分野はベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続など。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆・監修も多数手がけている。
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