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フリーランスの生命線を守るために 報酬をめぐる「うっかり違反」を把握してトラブルを防ごう

  • 下請法

 

現在はさまざまな業界や業種でフリーランス化が進んでいます。

そうした状況の下、これまでに取引上のトラブルを経験したことがあるフリーランスは半数近くに上るという調査結果があります。

なかでも多いのが報酬をめぐるトラブル。

 

しかし、「下請法」に関するフリーランスの認知度は低いのが現実です。

また、フリーランスが経験したトラブルの中には、発注事業者が「下請法」をよく理解していないことに起因するものもあります。

 

そこで、本稿では、フリーランスが経験したトラブルを把握した上で、国によるガイドラインで公表されている事例や筆者自身の経験から、企業がうっかり犯してしまいがちな報酬に関わる「違反」を取り上げます。

また、それを防ぐ方法についても考えてみたいと思います。

 


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報酬に関するトラブルの状況

まず、中小企業庁による「フリーランスの取引実態と課題」(発表者:フリーランス協会)に掲載されている調査結果から、トラブルの詳細についてみていきましょう。     

 

報酬に関するトラブルと契約締結の方法

企業との業務委託契約において、これまでに取引上のトラブルを経験したことがあると答えたのは、45.6%と半数近くに上っています。  *1

次にトラブルの内容をみてみましょう(図1)。

図1  発注事業者とのトラブルの原因(複数回答)参考:中小企業庁(2020)(フリーランス協会)「フリーランスの取引実態と課題」p.23より筆者抜粋
https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/shingikai/kihonmondai/seidsekkei/download/002_02-1.pdf

図1のように、上位5位の中に「報酬の支払が遅延される」「あらかじめ定めた報酬を減額される」「買いたたきを受ける」と、報酬に関わるトラブルが3項目みられます。

また、第5位の「書面を作成し、交付してくれない」も実は報酬トラブルと関連しています。

トラブル発生時の契約締結手段は「口頭」が最も多く、45.5%と半数近くに上っているからです。

しかし、それは「下請法」に定められている親事業者(以降「発注事業者」)の義務の1つである「書面の交付義務」「書類の作成・保存義務」に違反する行為です(表1)。*2

表1 「下請法」に定められている親事業者の義務

出典:公正取引委員会「親事業者の義務」
https://www.jftc.go.jp/shitauke/shitaukegaiyo/oyagimu.html

 

ただし、現在は紙媒体だけでなく、「電磁的記録の提供」も認められています。*3

例えば、電子メールやホームページ上での公開・閲覧も可能です。

 

この場合に気をつけなければならないのは、電子メールは送っただけでなく、フリーランスがそのメールを受信することが必要だということ。

ブラウザ上で閲覧してもらう場合には、フリーランスがそれをダウンロードし、ファイルに記録するところまでが必要だということです。

 

また、支払いが遅延した場合、発注事業者には遅延利息を払う義務があります。

それは果たして遵守されているでしょうか。

 

「下請法」に対するフリーランスの認知状況

発注事業者の資本金が1,000万円を超える場合は、 フリーランスも下請法の対象になります。

このことを認識しているフリーランスはどのくらいいるでしょうか。

「知っている」と答えたのは42.2%で、半数以下でした。*1

 

では、「下請適正取引等の推進のためのガイドライン」(以下、「ガイドライン」)に関する認知状況はどうでしょう。

これは国が策定したガイドラインで、目的はフリーランスを含む下請事業者と発注事業者との間で、適正な下請取引が行われるようにすること。*4

 

「ガイドライン」を「知っている」「読んだことがある」を合わせた回答は35.5%でした。

そのうち、「ガイドライン」に則った発注がなされていたかという質問に対する答えでは、「はい」が35.5%(全体の12.6%)、「いいえ」が24.7%(全体の8.8%)です。

つまり、「下請法」に則った発注だったのかどうか把握していたのは全体のわずか21.4%。また、「ガイドライン」に基づいて発注の改善を要求したことがある人は、全体の8.1%にすぎませんでした。

 

発注事業者に求められる順法精神

上述の状況から、どのようなことがみえてくるでしょうか。

それは、発注事業者が「下請法」を遵守することがまずは必要だということではないでしょうか。

 

「下請法」は元来、発注事業者が優位な立場を濫用するのを防ぐために作られた法律です。したがって、その法律を遵守することは、フリーランスを尊重することにも、フリーランスとのトラブルを回避することにもつながります。

 

もちろん、フリーランスも自衛上「下請法」について学び、自身の権利を正しく認識することが必要です。

しかし、法律を熟知していたとしても、フリーランスが弱い立場であることに変わりはありません。それが正当な行為であっても、発注事業者に自分の権利を主張するのは勇気のいること。

 

それは筆者も身をもって経験したことです。

そのときのエピソードをご紹介しましょう。

 

フリーランスは弱い立場

ある企業から仕事のオファーをいただいたのがことの始まりでした。

顔合わせで、「一般的な金額以上はお支払いできませんが、それでもよろしいでしょうか」とにこやかに言われ、「はい、それで結構です」とお引き受けしました。

 

具体的な金額提示はなかったのですが、こちらからは切り出しにくく、すぐに送ってくださるという業務委託契約書で確認すればいいと考えました。

 

ところが、その書類がなかなか届かないのです。請求しようとも思ったのですが、発注事業者への遠慮と、そのうち送られてくるだろうという期待もあり、請求しそびれているうちに時間が過ぎていきました。

 

すると、仕事を開始する直前のタイミングで、書類が送られてきたのです。

しかし、そこに記載されている報酬は不当に低いものでした。

相場の60%程度、筆者の複数の仕事のうち、最も高い報酬の30%にも及びません。

これは明らかに「買いたたき」にあたる事態。*5

 

そこで、報酬金額について交渉することにしましたが、そう決心するまでには葛藤がありました。

正当な権利とはいえ、仕事をくださる発注事業者に対して金銭的な要求をするのは、精神的な負担を伴います。

かといってあまりにも不当な報酬には納得できない・・・。

 

悩んだ末に、他の企業からの報酬金額を示し、この程度の報酬をいただきたいと申し出ました。

その結果、こちらの要望を通していただけたのですが、思い切ってそのような要求ができたのは、筆者がパラレルワーカーだからでしょう。

 

もし、それが唯一の仕事だったら、その仕事を失うことを恐れて、不本意ながらも最初に提示された金額で引き受けてしまったかもしれません。

また、「買いたたき」かどうかの判断はケースバイケースであるため、最初に提示された金額が微妙に低い額だったら、交渉が難航した可能性もあります。

 

発注事業者はフリーランスのこうした弱い立場を理解することが大切ではないでしょうか。

 

うっかりしがちな「下請法」違反

「下請法」は元来守るべきものですが、上述の調査結果からも遵守していない企業が一定数あることが窺われます。

それはなぜでしょうか。

 

なかには「下請法」の内容をよく把握できていない企業があるのかもしれません。

そこで、ここでは、フリーランスのトラブル経験にも挙がっていた、報酬に関する3点の問題について、うっかりしがちな違反事例をみていきましょう。

 

参考にするのは、前述の「ガイドライン」と「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」です。

 

報酬の支払遅延

誰でも報酬が予定どおりに入ることを当てにして暮らしています。報酬が遅延すると、たちまち生活に差し障りが出てしまう人もいるでしょう。

これはフリーランスにとって切実な問題です。

まず、下の図2をみてみましょう。*6

図2 報酬支払遅延の事例
参考:内閣官房・公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省(2021)「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン 概要版」p.6から筆者抜粋https://www.mhlw.go.jp/content/000766340.pdf

 

この図にあるような理由で支払いが遅延したのは、実際にあった事例です。*7

 

しかし、発注事業者は検査をするかどうかを問わず、発注した物品等を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内に支払期日を定めなくてはなりません。*5

 

ここで誤解しがちなのが、あらかじめ支払期日を定めなかった場合です。

そのような場合、たとえ当事者間で60日を超えて支払うことを合意していたとしても、それは法律違反になるのです。

 

ついうっかりしてしまいがちなので、注意が必要ですね。

 

報酬の減額

次は、決められていた報酬の減額です。

図3 報酬減額の事例
参考:内閣官房・公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省(2021)「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン 概要版」p.6から筆者抜粋https://www.mhlw.go.jp/content/000766340.pdf

図3以外の事例として以下のようなケースが挙げられています。*7

・小売業を営む委託事業者から、外装パッケージのデザイン作成も含めたプライベートブランド商品の製造委託を受けたが、デザインや製版に関する代金は支払ってもらえなかった。(紙・紙加工業)
・納品後、発注事業者に請求書を発行したが、支払の段階で協力金という名目で一方的に一定の割合を引いた額で支払われた。(印刷)

 

買いたたき

最後は、先ほど筆者のエピソードをご紹介した買いたたきです。

図4 買いたたきの事例
参考:内閣官房・公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省(2021)「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン 概要版」p.7から筆者抜粋https://www.mhlw.go.jp/content/000766340.pdf

 

図4の事例はどれも、発注事業者の強い立場を濫用していますね。

買いたたきの事例としては、この他に以下のようなケースが報告されています。*7

・見積書に基づく協議を経て合意した下請代金の額を、フリーランスと十分な協議を行うことなく、社内予算の都合で一方的に引き下げた。(情報サービス・ソフトウェア)

 

フリーランスの生命線を守るために

この他にもうっかりしてしまいがちな事例が数多く報告されていますので、各種ガイドラインなどでそれらを把握することが必要です。*8

 

では、うっかりした「下請法」違反は、どうやったら防ぐことができるのでしょうか。

それは、発注時に発注内容を交付しておき、それを遵守することに尽きます。

記載すべき事項は法令で具体的に定めてあるため、該当するものをすべて決定した上で記載するのが原則です。*5

 

大切なのは、発注したらすぐにフリーランスに発注内容を交付すること。この規定に違反すると、50万円以下の罰金に処せられます。

 

以上みてきたように、基本は「下請法」をよく理解して守ることです。

それはフリーランスの弱い立場を理解し、尊重することと同義。

そのことを認識している発注事業者は、フリーランスの信頼を集めるに違いありません。

 

資料一覧

*1 中小企業庁(2020)フリーランス協会「フリーランスの取引実態と課題」p.22、p.23、p.24、p.26、p.27
https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/shingikai/kihonmondai/seidsekkei/download/002_02-1.pdf

*2 公正取引委員会「親事業者の義務」
https://www.jftc.go.jp/shitauke/shitaukegaiyo/oyagimu.html

*3 公正取引委員会(2019)「下請取引における電磁的記録の提供に関する留意事項」
https://www.jftc.go.jp/shitauke/legislation/denjikiroku.html

*4 中小企業庁「下請適正取引等の推進のためのガイドライン」
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/guideline.htm

*5 公正取引委員会・中小企業庁「ポイント解説 下請法(親事業者向け)」p.8、p.16
https://www.jftc.go.jp/houdou/panfu_files/pointkaisetsu.pdf

*6 内閣官房・公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省(2021)「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン 概要版」p.6、p.7
https://www.mhlw.go.jp/content/000766340.pdf

*7 中小企業庁(2015)「下請適正取引等の推進のためのガイドライン(概要及びベストプラクティス)」p.23、p.24、p.25
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/2014/140619shitauke.pdf

*8 公正取引委員会「下請法について知りたい(各種パンフレット・動画)
https://www.jftc.go.jp/regional_office/chubu/shitauke_pamphmovie.html

 


ライタープロフィール

<横内美保子氏>

博士(文学)。総合政策学部などで准教授、教授を歴任。専門は日本語学、日本語教育。
高等教育の他、文部科学省、外務省、厚生労働省などのプログラムに関わり、日本語教師育成、教材開発、リカレント教育、外国人就労支援、ボランティアのサポートなどに携わる。
パラレルワーカーとして、ウェブライター、編集者、ディレクターとしても働いている。

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